TCフォーラム研究報告2022年3号(2022年5月公表)
<国・自治体の税・保険料取り立て業務デジタル化の人権問題>
~広がる反面調査・銀行照会業務のオンライン化~
石村耕治(白鷗大学名誉教授)
国や自治体(行政当局)による納税者や滞納者への反面調査や預貯金等の照会・回答業務の電子化/オンライン化/デジタル化(金融取引照会のオンライン化)がエスカレートしている。行政当局は、銀行などへの金融取引照会のオンライン化は、「デジタル化時代の流れで、利便性や効率もよい」と評価する。だが、主なターゲットとなる経済的にひ弱な納税者や滞納者の権利利益がむしばまれることのないように厳正な法的対応が必要だ。
オンラインの金融取引照会手続では、照会対象者の金融プライバシー、自己情報のコントロール権の保護を徹底しないといけない。照会手続を適正にし、システムも透明なものにして、憲法がゆるす水準のものにしなければならない。言いかえると、反面調査や預貯金等の照会については、最低でも納税者本人や滞納者本人の権利利益を侵害しないものでなければならない。また、反面調査や金融取引照会手続に納税者本人や滞納者本人を積極的に参加させる必要がある。このためには、行政庁に、反面調査・財産調査の開始にあたり、納税者本人や滞納者本人への事前通知をすることや、本人からのアクセスログ(反面調査履歴)の求めに応じるように義務づけないといけない。加えて、本人に苦情申出の権利を認める仕組みを整えないといけない。
今般の行政当局のよるオンライン金融取引照会には、NTTデータ(株)などIT企業が開発した仲介デジタルプラットフォームが使われている。納税者や滞納者の権利利益を護るには、IT企業が、ピピットリンクやDAISのような商標で提供するデジタルプラットフォームサービスを透明化し、第三者によるシステム評価を義務づけるなどの法規制も不可避である。
本報告では、金融取引照会オンライン化の動向と、国・自治体の税・保険料取り立て業務デジタル化における納税者や滞納者の手続上の権利利益保護の法的仕組みのあり方を丹念に探っている。