2020年度の日本租税理論学会活動をふり返って

2021年3月17日
理事長 石 村 耕 治

2020年度日本租税理論学会(本学会)の役員会・研究大会・会員総会は、新型コロナウイルス感染症(コロナ禍)のさなか、2020年11月28日および29日にオンライン開催し、成功裏に終えることができました。ご多用なところ、またコロナ禍で精神的にも厳しい折、ご参加いただいた役員、会員の皆さま方には、こころからお礼申し上げます。

◆ 想定外のコロナ禍への対応

コロナ禍は、2020年当初から、国内でも徐々に広がりをみせてきました。しかし、わが国では、この種の感染爆発(パンデミック)の怖さを知らない世代が国民の大部分を占めております。本学会事務局も、当初、公衆衛生やパンデミックに対する無知という点では同じレベルでした。早期に収束するものと安易に考えておりました。
しかし、私たち国民は、コロナパンデミック(感染爆発)の終息は至難であること、そして、終息できないと、都市のリアルの活動は繰り返し機能不全になること、を次第に学んでいきました。それとともに、社会のさまざまな活動において、「オンライン」で可能なものについては、「リアル」から「オンライン」(デジタル/ネット)に大きくシフトしていきました。「人と人の接触」を回避する作法が必須になったからです。
テレワークやオンライン授業が推奨され、新たな日常(new normal)が出現しました。大学教育はもちろんのこと、オンライン化できるさまざまな取引や業務がオンライン/デジタル/ネットに大きくシフトしていきました。
学会活動も、例外ではありませんでした。多くの学会において、オンライン開催に大きく舵を切っていきました。
本学会も、こうした動きから逃げるわけにはいきませんでした。こうした動きを積極的に受け入れると決めたものの、その結果、事務局は、想定外の重荷を背負うことにいたったわけです。
今般、学会のなかには、コロナ禍を機に、学会開催をオンラインに一本化する動きもみられます。開催幹事校や会員の旅費等の負担を軽減し、学会活動を効率化することがねらいです。本学会も、この段階までステップ・アップすべきなのかどうかについては、今後、慎重な判断が求められます。

◆ 情報メディア事務センターの設置

本来、2020年度の本学会役員会、研究大会、会員総会などは、東京都内、立正大学の品川キャンパス(開催校幹事・長島弘理事)で開催する予定でした。長島理事には粛々と準備いただいたのにもかかわらず、コロナ禍はリバウンドを繰り返し、リアル開催は不可能でした。長島理事には、こころからお礼申し上げるとともに、お詫び申し上げる次第です。
幸いにも、本学会は、コロナ禍が広がる前の2019年度からHP(ホームページ/ウエブサイト)を大改修し、ネット/オンライン/デジタルインフラの整備・強化に取り組んできました。当初、本学会活動のネット/オンライン/デジタル化の方針には強い異論もありました。しかし、コロナ禍のさなか、こうした意見はしぼんでいきました。
本学会事務局は、2020年8月ころに、2020年中のコロナパンデミックの終息は至難ではないかとの結論にいたりました。そこで、「出口戦略」を練るべく、事務局に、本学会の研究大会・役員会・総会のオンライン開催(オンライン開催)に向けて、ネット上に「情報メディア事務センター」を設けました。
センターのオンライン開催事務には、IT担当の中村克己理事や口座管理担当の荒川俊之理事に加え、ITに強い望月爾理事に加わっていただきました。少数精鋭で、学会のオンライン開催に向けた作業を積極的に進めました。私も、日々のオンライン授業や会議、研究会などに参加してきた体験をもとに、一兵卒として参加しました。
全会員からのメールアドレスの収集、チェック、Zoom配信ツールを使ったオンライン開催の準備、クレームへの対応、エラーメールのチェック・再送、各報告者のレジメのHPアップ、質問の徴収、フィードバック、Zoom学会への招待状の送付等々。事務負担は、当初の想定をはるかに超える量でした。
2020年度の学会が全面オンライン開催にこぎつけられたのは、情報メディア事務センター所属の理事の先生方のご尽力によるところが本当に大きかったと思います。「危機管理」手法を磨き、「出口戦略」を描き、実働部隊としてご協力いただいた情報メディア事務センター所属の理事の先生方には、心から感謝申し上げる次第です。私にとっても、よい体験となりました。

◆ 研究大会:感謝と反省

2020年度シンポのテーマは、「企業課税をめぐる内外の諸課題」でした。報告内容は、コロナ禍の最中でパンデミック(感染爆発)に関する内外の企業課税の問題や地方の財源問題、国際デジタル課税問題まで盛りだくさんでした。レベルの高い報告が続きました。各報告者およびコメンテーター、さらには司会を務められた望月爾理事および木村幹雄監事には、心からお礼申し上げます。
また、裏方で、Zoom配信ツールを使い、画面へのアップ等の操作・録音等を担当いただいた中村克己 IT担当理事や荒川俊之理事には、とりわけ深謝申し上げます。会員への招待状の送付までの時間のかかる地味な作業を含め、数か月間のマネジメントにおいては、かなり心労がたまる毎日ではなかったかと思います。
一方、反省すべきこともありました。オンライン研究大会での「討論」のマネジメントの悪さです。2019年度のリアルの研究大会の討論でも、タイムシェアリング(時間配分)がうまく運びませんでした。その結果、最終報告者に十分な発言時間が確保できないなどの問題が生じました。
この反省を踏まえて、2020年度研究大会の討論では、若干の工夫を試みました。しかし、やはりタイムシェアリングで失敗いたしました。若手会員から「報告者が隅に追いやられ、特定のシニア会員の独断場になってしまっている。公平な発言時間の管理を切にお願いしたい」との厳しいご意見もいただきました。今年度は、この点については真摯に対応したい、と考えております。多くの会員の先生方に不快な思いをさせないように抜本的な改善に努める所存です。ご寛容のほど、くれぐれもよろしくお願いします。

◆ 山本守之理事 ご逝去

本学会理事の山本守之先生が、2020年11月28日(土)午後の本学会役員会へのオンライン出席後の夜、突如、心筋梗塞でご逝去されました。
突然の悲報に接し、会一同、驚きを禁じえませんでした。山本守之先生は、日本租税理論学会の創設メンバーで、わが国の税務会計学界の重鎮であられました。つねに在野の立場から発言され、私たちの良き師でありました。ご逝去のお知らせを受け、ご指導を仰ぎたいことがたくさんあったのにと、痛惜の念でいっぱいでした。
会員一同、心からご冥福をお祈りいたします。山本守之先生、長い間ご指導くださり、ありがとうございました。どうぞ安らかにお眠りください。

◆ 日本学術会議会員任命拒否問題に対する声明

本学会は、日本学術会議の学術協力団体です。菅政権による日本学術会議会員の任命拒否問題は、わが国学界に大きなインパクトを与えました。日本国憲法が保障する学問研究の自由(19条や21条)への政治介入にもつながりかねないからです。本学会は、役員会および総会のお許しを得て、2020年11月29日に「政府による日本学術会議会員の任命拒否問題に対する声明」をHPでアナウンスしました。

◆ 新事務局長の選任と事務局の移転

わが国おけるデジタル化/オンライン化/ネット化の大波は、本学会の事務処理にも押し寄せてきております。加えて、会員の、いわゆる「デジタルデバイド(情報技術格差)」問題も深刻です。双方のニーズに応えるために、従来からの紙の会報の送付や会費の徴収などのリアルの事務に加え、オンラインの事務が重くのしかかってきております。事務局の重荷を解消するためにも、オンラインでできる事務はできるだけオンラインに移行していくことについて、ご了解いただければと思います。リアルの事務負担を増やすような提案は、できるだけ慎重を期していただきたいと思います。
今回、本学会の事務局長を、望月爾理事に交代することを役員会および総会でお認めいただきました。これに伴い、事務局も、望月爾理事の本務校である立命館大学に移転したしました。今回の交代は、オンライン対応が得意でないと、その職務を遂行するのが至難という、時代的な理由、オンライン化の大きな流れに対応した結果でもあります。また、監事もお一人が退任、平石共子会員に交代することについても、役員会および総会でお認めいただきました。これも、インターネットを使わない会員では監事の職務を果たすのが至難という、時代的な理由、オンライン化の流れに対応した結果です。ご理解のほどをくれぐれもよろしくお願いいたします。

◆ 男女共同参画政策への本学会の対応

男女共同参画は、本学会にとっても重い課題です。平石共子会員の幹事就任および松岡基子会員の理事就任も、この課題への対応の一環です。今後とも、アファーマティブ・アクション(積極的登用策)を進めていきたい、と思います。会員の先生方のご理解とご協力のほどをくれぐれもよろしくお願いいたします。
加えて、研究大会での報告等においても、男女共同参画を積極的に進める方針です。この点についても、会員の先生方のご理解とご協力のほどをくれぐれもよろしくお願いいたします。

◆ 2021年度の本学会開催に向けて

2020年日本租税理論学会総会・研究大会は、「裏方の見えない無償の膨大な作業」へのご協力を得て、何とかオンラインで開催にこぎつけ、無事終えることができました。
2021年度は、リアル開催が可能であれば、名古屋市近郊の名城大学キャンパス(開催校幹事 伊川正樹理事)で開催する予定です。
しかし、コロナ禍に関する政府や自治体の不透明な出口戦略が続いております。相変わらずのインパールの繰り返しです。リバウンドを繰り返し、コロナ禍の終息が見込めない場合には、2021年度も、本学会の情報メディア事務センター主導でオンライン開催となります。あらかじめご了解いただければ、と思います。
もちろん、リアル/オンライン併用開催、あるいはオンライン開催への一本化など、さまざま選択肢を探ってみたいと思います。本学会の情報メディア事務センターにおいて、開催校の意向を織り込んで、慎重ながらも機敏に最終判断をしたいと思います。その際には、開催校での感染対策や受入態勢、会場のデジタル化/オンライン化設備なども視野に入れて多角的に検討したいと思います。

役員会でお認めいただいた2021年度研究大会シンポジウムテーマは、次のとおりです*。

 2021テーマ【デジタル化・格差是正・グリーン化と税制のあり方(仮題)

≪報告想定例≫
・テレワーク・ギグワークと勤務費用・人的控除のあり方(税法学/税務会計)

・税務のデジタル化とデジタルデバイド(情報技術格差)への対応(税法学)

・デジタル課税と税源の格差是正活用(財政学)

・惨事便乗型資本主義とベーシックインカムの功罪(財政学/税法学)

・内部留保課税:会計検査院の指摘と忘れられた抜本改革(税務会計/財政学)

・脱炭素投資と環境会計の課題(税務会計)

・グリーン・ニューディールと税制(財政学)

・EV化に伴う燃料課税から走行税転換への課題(税法学/財政学)

・その他

*なお、シンポおよび個別報告については、2021年4月中に公募・推薦をお願いすることになります。あらためて、本学会HPでアナウンスいたします。

会員の皆さま方には、2021年度開催に向けて一層のご協力とご支援を切にお願いする次第です。

末筆ながら、コロナ禍の一日もはやい終息を願うととともに、会員の先生方のご健勝を心よりお祈りいたします。

・新事務局体制
2020年11月28日役員会(理事会)で承認、11月29日会員総会でアナウンス。
2020年12月1日より新事務局体制始動