TCフォーラム研究報告2023年2号【2023年3月18日公表:3月27日改訂】

TCフォーラム研究報告2023年2号
Q&A:デジタルID[デジタル本人確認]とは何か!
石村耕治(TCフォーラム共同代表・白鷗大学名誉教授)

わが国では、対面/目視/リアル/オフラインでの本人確認には、運転免許証や旅券(パスポート)などが使われてきた。こうした「リアルID」の時代が久しく続いてきた。しかし、インターネットの発達、社会経済のデジタル化/オンライン化/ネット化の進展に伴い、「デジタルID」が必要不可欠になってきた。「デジタル本人確認」ともいう。

「デジタルID」は、本来、ウエブサイト(デジタルプラットフォーム/ポータルサイト)に安全にアクセス/ログインする際の本人認証(authentication)ツール(道具)のはずである。しかし、「デジタルID」は、安全対策(データセキュリティ)を「ニセ旗」に、不正義な技術仕様/デザインを選択すれば、人権侵害を狙いに「デジタルトラップ(監視の罠)」にもできる。

「国民監視用の国内パスポート」、「健康保険証データの自動徴兵選別」、「社会保障給付対象選別」、「信用スコア制度(social credit system)」等々。悪だくみでの悪用例は数知れない。

わが国のマイナンバー(マイナ)システム/マイナICカードは、住民登録情報をベースとしたつくりだ。対面で使う物理的な「リアルID」を継ぎ足し、非対面でも使える「デジタルID」に衣替え、本人確認をする仕組みだ。

「デジタルID」には、さまざまな技術仕様/デザインの選択が可能だ。ところが、政府は、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)の技術仕様/デザインを選択し、それを格納する「箱」として「ICカード/マイナICカード」の取得を強要している。しかし、アカウントID・パスワードのような、他の技術仕様/デザインを選択すれば、ICカードは要らないはずだ。

悪巧みに長けた政府は、考えた。悪国民皆保険制度で逃げ切れないマイナ保険証とマイナICカードを合体させよう。そうすれば、国民全員が、常時携行せざるを得なくなる。逃げられない国内パスポート(内国人登録証)にできる、と。

世界を見渡すと、物理的なICカードがないとスマホにデジタルIDを“写経”できないデザインは明かに時代遅れである。いまやモバイルIDアプリを直接スマホに格納するデザインが国際標準である。

経済社会のデジタルシフトが急激に進むなか、世界中の国(米英)や地域(EU)が市民/ユーザーに使いやすい「デジタルID」の導入に懸命に取り組んでいる。「デジタルID」には、背番号や属性情報に加え、生体認証(顔面、指紋、眼の虹彩など)を使うケースも少なくない。しかし、デジタルIDは、それが持続可能(サステナブル)な利用ができ、かつ人権を侵害しない、人権ストレスの少ないデザイン/技術仕様のものでないといけない。

わが国のマイナシステム/マイナICカード、マイナ保険証+顔認証で保険資格を確認するシステム「マイナ保険証資格確認オンラインシステム」(Mシステム)は、「人権エコシステム」を欠いている。民主国家が誇れる、正義にかなう「デジタルID」ではない。権威主義国家が使う「デジタルトラップ(監視の罠)」と化している。Mシステムには「人権」のキーワードがすっぽり抜けている。

TCフォーラム2023年2号「デジタルIDとは何か!」では、世界で加速するモバイル化、ICカードに頼らない、「人権ファースト」、デジタル正義にかなうデジタルID[デジタル本人確認]を求め、官民の動きを追った。